ハルジオン。
第二章 蛍の森

(一)

(一)


黄麦色のススキを手に、寺へと続く石段を登る小さな子供の背中が、夕日に染まって揺れている。

「あ、まゆむし!」

「……うん」

「こっちも!」

「……そうね」

逸子は急にしゃがみ込んで足元を見つめている息子の横で立ち止まり、虚ろに町を振り返った。

古い家々が眼下に軒を連ね、遠くに見える山も、町中を流れる遠野川の土手も、何もかもが緋色に包まれている。

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