僕の死に方
藤見正信
 思えば、藤見正信が泣いているところを見たのは、あれが初めてだった。
 今までどんなに苛められても、彼は涙を見せたことは無かった。
 それがどんな意味を持っていたのか、そんなことは解らない。

 だけど彼はあの時、初めて自らの感情を露わにした。
 悲しい、と主張するように泣き声を上げた。
 それは自分が苛められている時ではなく、人を殺そうとして出来なかった時なのだ。

 藤見正信は、僕の想像を上回るほどに温柔な人間だったのかもしれない。

 そんな彼が、自分の感情を爆発させた日から、
 藤見正信という人間の世界は、色を変えた。
< 39 / 52 >

この作品をシェア

pagetop