わがまま娘の葛藤。
色男の元カノ



『バイト終わった?迎え行くから、また連絡して』

バイト上がり、礼からメールが一件。
金曜の夜はあたしも礼もバイトを少し早く上げて、そのままあたしの家でDVD鑑賞会をするのが決まりになっていた。
(居酒屋勤めのくせに、最低だけど)


基本は洋画。
ラブストーリーからアクションまでジャンルは様々。

あのシーンが素敵だったとか。
あの女優の衣装が綺麗だったとか。
もし自分ならこのシーンはこう撮るのに、とか。
特に意味もない会話をひたすら交わす。

お互い映画通のあたし達だが、映画館でバイトをしている礼は尚更。
人と一緒に観るのはあんまり好きじゃいが、穏やかで落ち着いたふたりきり時間と空間が思いの外気に入っていた。




『今、終わったよ。外出るね』

私服に着替えて軽くメイクを直したあと、外で礼を待つ。

バイクの音と超絶セクシーな声に振りかえると、ヘルメットをしていても分かるほどの“イイオトコ”。
思わず惚れ惚れとしてしまった。

“なに、ぼーっとしてんの”

そう言って、あたしのヘルメットを投げる。
ピンク色のそれを付けながら、顔は見えないけど、奥にいつもの笑顔があるんだろうな、と思った。



「…おそいよ」

照れ隠しにいつもの減らず口。

「待ってねぇじゃん」

それに気づいたのか、また呆れたように優しく笑う礼。


“ちゃんとつかまってろよ”

そんな何気ない言葉にもいちいちどきどきしたりして。
もう付き合って何年だよ、と自分に突っ込みたくなる。


くやしい…
そんな意味も込めて、礼の背中に思い切りしがみついてやった。


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