私立秀麗華美学園
8章:浴衣で勢揃いの夜に
太陽の勢力が強まり、雨雲が姿を消してから10日程が経った。
日差しは完全に夏場のものとなり、からりと晴れた日がよく続いた。


今日は終業式。
私立秀麗華美学園の生徒たちは明日から夏期休業に入る。

学園の夏休みは世間一般よりも少し長く、9月の半ばまで続く。
多くの生徒たちが家族と共に長期のバカンスへ旅立つためだ。

政界、経済界の大物たち御用達の学園に在籍する生徒たちなだけあって、その行き先は多岐にわたる。
学園中の生徒の旅先を紙に記していけば、少なくともヨーロッパの地図ぐらいは完成するんじゃないだろうか。



空調のきいた大ホールで高等部の全生徒が集まり、白上椿先生のありがたーいお話(今回は毒入りリンゴが登場し、7人の小さな人間たちが活躍した)と、各部活動の表彰式などがあった。

HR教室では長期休暇中の諸注意についてのプリントや成績表が返され、一瞬教室内がうめき声や嬌声に包まれる。
その浮き足立った様子を教壇で榎本担任が一喝し、今学期の反省と来学期へ向けての目標と休業中のご子息ご息女としてのあるべき姿となんたらかんたら、要するに大半の生徒にとって右から左の内容のお説教があったが、チャイム(鐘)が鳴ってようやく生徒たちは解放された。

休暇中の予定を自慢し合い、謙遜し合いつつ、生徒たちはかしましく煉瓦造りの校舎を出てゆく。

早足で寮へ向かい、次々と大きな荷物を持った生徒たちが出てくると同時に、ボディに無駄な長さを誇るお迎えの車のラッシュが始まる。

学園や寮とのしばしの別れを惜しみつつ流れ出てゆく車や、バス停に連なっていた長い列が消えていくと、あとには、休暇を寮で過ごしたり、遅れて里帰りやバカンスをしたりする生徒たちが残される。


顔を輝かせて敷地を出て行く生徒たちを見送る側だった俺たち4人は、ひっそりとした食堂でいつも通り歓談していた。

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