気まぐれ社長の犬
再生

冷たい雨が降りしきる中、私は1人ふらふらと繁華街を歩いていた。

薄手のシャツは肌に張り付き、体は冷たくなっている。

だけど、何も感じることはなかった。

頭に思い浮かぶのは父親の冷たい表情と弟の熱っぽい目。

思い出しただけで耐えきれず、私は力の限り路地裏の壁を殴った。

拳から血が出て、その血は雨に滲んでいく。

今まで言われてきた父親からの言葉が脳内を反芻する。

あの言葉に、愛がこもっていたことなんてあるのだろうか?

下卑た憎い男の笑顔が過ぎる。

「私…もう…。」

路地裏で血の流れる拳を握りしめた時、私に容赦なく降り続けていた雨が消えた。

雨粒が傘に当たる音だけが耳に入る。

顔を上げると、深くシワを刻んだ懐かしい顔が私を見つめる。

「うちに来い」

表情を変えず、静かに私を見つめる瞳は以前と変わらない。

真っ直ぐで、曲がった事が嫌いな祖父の目だ。

「でも…」

「来たくないならそれでも構わん。お前が野垂れ死んでもわしは困らんからな。ただ、生きたいと思うなら…人生を変えたいならわしに付いてこい」

私の返答も待たず歩き出したその人の後ろを、私はゆっくりと歩いた。


その瞬間、私の運命は動きだしたんだ―――



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