甘い声はアブナイシビレ
2.知穂の変化
 今日は日曜日。

 昨日あの後、知穂から電話が来るかもと思って待ってたけれど、携帯電話は鳴らなかった。私からは何となく掛けにくいし…。明日会社で会ったら、さり気無く聞いてみよう。

 そういえば、
 結局、龍一さんの携帯番号も聞きそびれちゃったな…。

「ふぅ~」一つ大きなため息をつく。
 部屋の掃除をしてから、気分転換に買い物に出かけることにしよう。

 コンコン。

「んー、どうぞー」
 部屋のドアを開けたのは、弟の悠斗。生意気な高校3年生。

「ねーちゃん、ちょっと本屋に付き合ってよ」
 右手で茶髪の髪をいじりながら、ダメージ加工したデニムのジーンズに左手を突っ込んで、扉に寄りかかっている。
 Tシャツは、バンドがフォトプリントされているタイトな物を、上手く着こなしていた。

 悠斗は受験生だというのに、勉強よりもファッションに夢中で、受験勉強に集中せずに服を買うためにバイトばかりで困る…。と、お母さんがよく嘆いている。

「何で?」
 わざわざ休日に弟と出かけるなんて、出来れば避けたい。

「参考書を買うんだけど、どれがいいのかわかんなくてさ…」
「ふ~ん。悠斗もちゃんと受験のこと考えてんだ」
 見た目は、チャラクなる一方だけれど、やる時はやるんだねー。
 嬉しくなって、悠斗の髪の毛をクシュクシュ撫でつけた。

「ちょっ、やめろよ!」私の腕を払いのけて、また髪の毛をいじりだす。
 ん?
「悠斗、また、背のびた?」
 いつの間にか、私より10センチ以上高くなっている。

「そうかな、気にしてねーけど」
 隣に並んでみると、私の頭が悠斗の肩くらい。
 そっかー、悠斗も大きくなったねー。よしよし…、頭を撫でようとしたら、逃げられた。

「キメーから近寄るなよ!」
 キモイって、何よ!
「いいか、今すぐ来いよ!」
 姉に向かって偉そうな態度で、悠斗は玄関へ向かった。
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