モラトリアムを抱きしめて
喪服
ひろ、こ……?

おばちゃん?


目の内側を何かで何度も、何度も刺されているような終わらない痛み。

それに、頭の上に雷でも落ちたのではないのかと思うほどの直線的で重い痛み。

痛みの奥で私の脳は『海』を見ていた。

海は青と緑が交じり合い、小さくて細かい気泡がちりばめられ白く、雪が舞っているようだった。

輝く水面を黒い煙を吐きながら船が行き交う。

煙を消し去るように強く吹く潮風。

どこだっけ……。


そうだ。


ここは、私の生まれ育った町だ。



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