甘くないコーヒー
空と海
海に向かって釣糸を垂らしていると


「光ちゃん。」

と心地よい声がオレの耳をくすぐった。

振り向くと、白いワンピースを着た明日見が立っていた。

潮風にはためくスカートを押さえようともしない。オレは慌てて目を逸らした。


「何か釣れた?」明日見は隣に腰をおろした。

「いや。まだ釣れない。」と棒読みになってしまった。


「そう。」明日見は、オレの肩に頭をもたれかけてきた。シャンプーの香りだろうか?甘い香りが、オレの鼻をくすぐった。


チラッと明日見の顔を見てみると、目を閉じ波の音を楽しんでいるかのようだった。


睫毛が長く、唇も頬もピンク色だった。そのピンク色の唇が動いた。



「私ね、空が大好きなの。色とか雲とか、鳥が飛んでる姿とか。でもね、高い所はキライなの。飛行機もキライ。スカイダイビングなんて、あんなの人間がやるもんじゃないよね!光ちゃんは?空好き?」と一息で話した。


空が好きなんて、考えた事なかったなと一考していると、明日見がオレの顔を覗きこんだ。


オレの目を真っ直ぐに見つめる瞳は、男を惑わせる何かと無邪気な何かを持ち合わせていた。


「空よりも海の方が好きだな。」やっとの思いで答えた。


「どうして?」またオレの顔を覗きこんだ。

「どうしてって…特に理由なんてないよ。釣りが好きだからかな。」


「ふ~ん。理由もなく好きになれるのかな?」


チラッとオレの顔を見てから、また肩に頭をもたれかけてきた。


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