Tricksters2ッ
じゅんちゃん、鍋パーチーだよ
────運転手つきのリムジンで走り去った藍莉を、トリックスターズの正面玄関から見送った。
あの豪華な船も自分とこの船だって言ってたし、アイツ本物の香月家のお嬢様なんじゃねーの?
佐藤ちゃんの勘違いって線も強いな。
唇をゴシゴシとスーツの袖で拭きながら、自動ドアを抜ける。
正面玄関フロアーには、ミエちゃんが暇そうに座る受付と喫煙スペースがある。
喫煙スペースとは、籐で編まれた椅子とテーブルが幾つか置いてありガラスで覆われた本格的なものだ。
いつも数人の男性社員で賑わっている場所だ。
ってなんでアイツ。
優雅にタバコふかせてんだよー!
「ゼン! お前のせいで、俺がどんな目にあったかわかってんのか!」
ガラスのドアを開くと、むせかえるようなタバコの煙。
「バカ、淳一。そのドアは二秒以内に開け閉めしないと、ミエちゃんに叱られるぞ」
「え……」
そりゃ、大変。
はやく閉めないとな……
「しかし、寒くなってきたし。やっぱ鍋パーチーが盛り上がるよなー」
「ゼン所長は、何鍋が好きなんですか? すみません」
喫煙スペースには営業部城田部長もいた。
「俺の、マイブームはトマトチーズ鍋。パスタでしめても、オムライスでしめても美味いんすよ。城田部長は?」
「私は、味噌鍋でしょうか。すみません。鍋の縁で味噌を焼く香りが好きなんです」
「くーっ、わかります! 日本酒がすすんじゃいますよね」
「すみません。わかります? そうなんですよ。ついつい飲み過ぎます。ほんと、すみません」
「淳一は、何鍋が好きなんだ? 豆乳鍋とか、女子みたいなこと言うなよ」
………………。
コイツ、いっぺんでいいから本気で殴っていいか?