わかれあげまん
カナタくん
のろのろと水で濡れたカットソーを脱ぎ、ハイセンスな黒いチェックのネルシャツに袖を通した時、フワリと優しい洗濯物の香りがした。
いい匂い…柔軟剤使ってんのかなー。
ボタンを掛けながら考えているとまたいきなりカーテンの向こうから声が飛んだ。
「名前教えて」
「は、はい?」
「あんたの名前。日誌書くから」
「あ、そっか。星崎です。ほしざきゆず。…あ」
言ってから、しまった、と柚は目を眇める。
「……」
心なし、カーテン向こうの空気が一瞬冴えた気がして、焦りに柚は息をつめた。
どーせこの人も名前聞いて、今このカーテンの向こうで色めき立ってるんだ。
あたしが、
学内でも有名なあの“わかれあげまん”だって分かって。
と。