ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―
あと5ヶ月

1

 でもまだ どうにかなるんじゃないかと
 根拠のない希望にすがるんだ


 あれからレミとは会ってない。
これで別れたということになるんだと思う。

 ミツはカップラーメンのフタをあける。
フタの裏についた水滴がこぼれないように几帳面に半分に折って、
そのへんに転がっているコンビニ袋に入れる。
手も合わせずにずるずるとかきこむ。

 洟をすすってテレビに目をやる。
オーディション形式の音楽番組にグラビアアイドルとお笑い芸人が
司会として出ている。
ミツと変わらない歳の四角い顔の男が緊張しながら話している。
画面が変わってスクエアフェイスが歌い始める。
二口めもいっきにラーメンを吸い込んで、
口を動かしながらティッシュで洟をかむ。
麺が鼻のほうへあがってミツはむせる。

 ドンドンドン

 ミツはむせながら音のするほうを見た。
鈍い音をたてているのはボロアパートのドアだ。

「おおい!」
 ドアを叩く犯人がミツを呼ぶ。

 ドンドンドン

 ミツは、ティッシュを投げ捨てて立ち上がった。
「おお、助かった。」

 ドアを開けると、洋二が立っていた。
「なに。」
 洋二は、まだそれほど寒くもないのになみだ目で
歯をガチガチいわせている
。おまけに下半身にバスタオル一枚まいただけの裸だ。
痩せた白い肌に鳥肌が立っている。

「お湯、出ない。」
「はあ?」
 洋二はミツを押しのけて部屋にあがりこんだ。
 洋二の歩いた後に水でできた足跡が残る。
「水浴びしちゃったの、おれ。」

 洋二は体育座りでないと入れないほどの小さい風呂のシャワーをひねり、
手で温度を確かめている。

「湯沸かし器壊れたのか?」
「そうゆうこと。ヒドイよね。おれ引っ越してきたばっかりなのに。」
 勝手知ったる洋二の様子にミツはあきれている。
「ねえ、閉めて、ミツくん。」
 洋二はいつのまにかバスタオルも放り出してシャワーを浴びだしている。ミツは舌打ちして乱暴にバスルームのドアを閉めた。
「う、わ。」
ミツは足の裏を見た。
シャワーの飛沫で濡れた床を踏んだようだった。
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