優しい手①~戦国:石田三成~【完】
盲目の姫君
三成たちは手早に荷物をまとめて大山たちが引いてきた馬に乗った。


…桃もクロに乗ろうとした時――


「姫、その馬は置いて行こう」


「え…?でも…」


謙信がクロの手綱を桃の手から奪い、鼻面を撫でた。


「私たちはここにたどり着くまでほとんど止まることはなかったんだ。終始刺客が襲ってきたからね。だから同じように馬を乗り捨てて行こう」


…何気に“襲われた”とさらっと暴露した謙信に桃が目を見張る。


そしてクロは“置いて行かれる”という気配を桃の顔から察知して、早速前脚をかいて抗議をする。


「謙信公、その馬は疲れ知らずで桃程の重さならば乗せていないのと同じだ。…クロ」


嬉しそうに鼻を鳴らしたクロの背を叩いてやり、謙信が仕方ないというように肩を竦めて桃を抱え、クロに乗せた。


「ではこれより上杉と伊達は共闘する。いいね?」


「ああ、俺は構わぬ」


今までのんびり顔をしていたくせに急に顔つきの変わった謙信の顔は戦場に出ている時と同じ顔つきをしていた。


「上杉の軒猿と伊達の黒脛巾組はこれより連携せよ。一切争い事を禁じ、破った場合、厳しく罰する。桃姫を最優先に守護し、刺客ある場合速やかに処分だ。さあ、行きなさい」


――ざあ、と多くの気配が一斉に散ずる。


見事に忍者集団をまとめ上げ、憧憬の瞳で見つめる政宗と、


いつも以上に黙ったままの三成と…

そんな三成が気になる桃と…


小十郎と兼続はいつの間に仲良くなったのか、拳と拳を一度打ち合うとそれぞれの主君の元へと駆け寄った。


「桃姫、殿がやる気になった以上心配ご無用ですぞ!お疲れになった時はすぐにお申し付けくださいませ」


「ありがとう、兼続さん」


いつものセーラー服に着替えた桃が馬上から兼続に笑いかけ、そしてまた三成に視線を戻した。


…目を合わそうとしてくれない。


部屋から抜け出して謙信と一緒に居たことが三成を怒らせたかもしれない、と考えた桃は、否定することができずに肩を落とした。


「尾張から…いや、この屋敷から一歩出たら越後までは戦場と同じ。久々に滾るぞ!」


威勢のよい掛け声と共に政宗が飛び出して行った。
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