優しい手①~戦国:石田三成~【完】
石田三成
「…あのうつけ者たちはまだ言うことを聞かんのか」


――病床から弱々しい声で呼びかけたのは…


「信長様…まだ口を割りませぬ。桃姫の名を伝えた途端、さらに意固地になってしまいました」


背は小さいが、女子と見紛うほどの柔和な美貌の男…森蘭丸が枕元に座りながら膝を悔しそうに叩いた。


「お蘭よ、儂の病を治す術を必ず先の時代からここへ持ってくるようにするのだ。儂は諦めぬぞ」


信長の枕元には桃の両親…


ゆかりから奪い取ったヒビの入った不思議な石が嵌まっている首飾りと、むき出しになって半分に欠けた石。


彼らがこの不思議なものを使ってこの時代へやって来たことを掴んだ信長は方々を捜し回り、ようやく2人を手中に収めることができた。


首飾りの方はどこも欠けていないので、妻のゆかりの方だけでも元の時代へ戻らせて、本能寺で受けた傷の特効薬を持ってこさせようとしたのだが…


“私は1人じゃ絶対に戻らない”


ゆかりから頑なに拒否されて、しかも捕える瞬間、首飾りに嵌まっている石をこともあろうに壁に叩き付けてヒビを入れてしまった。


「あのうつけ者共が…!あとは…あ奴らが知らず知らずのうちに呼び寄せた桃という女子を手に入れて、あ奴らの代わりに…」


天下統一を諦めてはいない。


本能寺で受けた肩の矢傷が膿んで、身体全体に毒が回った信長は高熱に苛まれ、徐々に身体が蝕まれてゆく。


「信長様、朗報でございます。桃という女子は現在越後の上杉謙信に庇護されているとのことです。如何なさいますか」


――途端、信長が跳ね起きた。

口ひげを生やし、ちょんまげ姿といったいかにも戦国武将の出で立ちの信長が立ち上がり、目をぎらつかせる。



「戦じゃ!越後を攻め落として桃姫を手に入れるぞ!秀吉を呼んで来い、すぐに準備させろ!」


「はっ!」



――はじまってしまう。


最も恐れていたことが――
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