揺れない瞳
隠していた気持ち

「で、そのまま何もなく帰ったって?」

「…」

大学が終わって加絵ちゃんと二人で食事に来たのは和食がおいしいお店。
どちらかというと地味な店構えで、客層も私達よりも年輩の人が多い。
大通りから少し離れているせいか静かな周囲に溶け込んでひっそりとしたお店は私達のお気に入りだ。学生の私達でも無理なく食事ができる価格もお気に入り。

向かい合わせに座った私達は、いくつか注文したお惣菜を食べながら話すけれど、ほとんどの話題は私の事だ。

夕べ、央雅くんに言われた事や、ここ最近のときめき溢れる日常。

人間関係を広げたり深めたりする事を積極的にしてこなかった私には、央雅くんの言葉や行動の全てに戸惑っていて、どう受け止めていいのかわからないままに流されている。

「結乃、もう少し踏み込まなきゃだめだよ」

加絵ちゃんには呆れてため息をつかれるくらいに何もできていない自分に改めて気づかされる。

「央雅くん、悪い男じゃないと思うけど。簡単に女の子を惹きつけられるような見た目だし、おまけに未来のドクターだよ。その事、本人もちゃんと自覚してるように見えた。女の子の扱いなんて慣れてるよ。…気をつけな」

早口の言葉にぐっと落ち込んだ。
加絵ちゃんの言う事は、そうなのかなと思うけれど、私を軽く扱ってるようには見えないし大切にはしてくれているとも感じる。

「私には、いつも優しいよ……」

私が思う事全てを加絵ちゃんに伝えようとしても出てくる言葉はたったこれだけ。
そんな自分に呆れて、ため息をつきたくなる。
確かに央雅くんは優しくしてくれるし私が傷つくような事はしない。

だからといって、央雅くんの本心が、私に届く事もなかった。








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