君のための嘘
第一章

決心

岡本 夏帆(おかもと かほ)はアメリカ、ロサンゼルス国際空港から日本の成田国際空港に向かう旅客機の中にいた。


ファーストクラスの広々とした席に座った夏帆だが、緊張と慣れない待遇で居心地が悪くて仕方ない。


これから日本へ向かうのは結婚式の為だ。


人の結婚式ではない。


自分の結婚式の為。


黒縁のメガネを外し、小さなテーブルの上に置くと、両方のこめかみに手をやり軽くもむように回す。


夏帆の心の中はやりきれない思いでいっぱいだった。


数日前、育ててくれた両親から会社が霧生ホールディングスに吸収合併することになったと告げられた。


父親が今の会社で社長の地位を留めておく為に、娘の夏帆が会長の孫と結婚する約束を交わしたのだ。


両親は本当の両親ではない。


夏帆は生まれて1年ほど経った夏に孤児院に預けられた。


だれも引き取り手もおらず、10歳まで孤児院で生活をしていた夏帆は今の両親に気に入られ養女になった。


そして、養女になってすぐに、養父の経営する会社がアメリカに基盤を置いた為に、1年後にロサンゼルスに住む事になった。


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