アジアン・プリンス
(2)イブニングドレス
ここはニューヨーク、アッパー・イースト・サイドのファイブアベニュー沿いにあるメイソン邸である。

豪邸の立ち並ぶ一角で、このメイソン邸は、今宵、ひと際華やかに飾り立てられていた。


それも当然だろう。アジアの小国とはいえ、摂政を務める皇太子を自邸に迎え入れるのだ。

しかもその目的は、国王の代理で、長女クリスティーナに結婚を申し込みに来る手はずになっている。

形ばかりとはいえ、形式は王族にとって最も重要なこと。返事はイエスと決まっており、すでにマスコミ発表や婚約パーティの準備もできていた。当然、挙式の日取りまで決定済みだ。


クリスティーナ……通称ティナの父、メイソン・エンタープライズの社長ロジス・メイソンは緊張した面持ちでプリンスの到着を待っていた。

メイソン・エンタープライズは、かつてアメリカ国内でアジア市場の開拓に1番乗りした企業だ。昨今のアジア市場は、中国を中心にまだまだ開拓の余地はある。

そのためにも、この不況をなんとしても乗り切らねばならない。それにはアズウォルド王国の出資は必須であった。


国家間に生じた問題の解決に、歴史上多くの例があり、かつ効果的な方法……両国はまたもや、婚姻による解決を選択してきた。

だが今回の場合、あまりにあからさまな政略結婚だ。

時代の流れもあってか、事前の打診で断わる家も多かった。しかし、メイソンのように、援助目的で名乗りを挙げる家も数件あったという。

その令嬢たちの中から、メイソン家の長女クリスティーナが選ばれたのは奇跡だ。

ここ数年、メイソン家にとってお荷物に過ぎなかった娘が片付き、政府に貸しができる。そのうえ、国王の義父、王家と外戚関係になれるのだから、まさに一挙両得だろう。


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