マスカケ線に願いを
第七条 躊躇するべからず

 例の仕事


 それから、一週間が経った。私は宣言どおりユズと顔を合わせていなかった。
 今までずっと二人で過ごしてた時間を一人で過ごすのは、酷く寂しく虚しかった。
 だけど、私は心を強くしなくてはいけなかったから。今までのままじゃ、何も変わらないから。だから、平気なふりをして日々を過ごしていた。

 高島君から連絡があったのはそんなときだった。

「それじゃあ、担保用の書類作成ってこと?」
『ああ』

 事務所にかかってきた電話を、デスクに回してもらって私は高島君と話をしていた。

『俺達がするプロジェクト用の資金だから、急ぐ仕事なんだ』
「そう。それなら、担当者の人にこっちに来てもらうのが手っ取り早いわ。身分証明書を忘れないで」
『わかったよ』
「必要な書類は、不動産の権利書に……」

 私が続けようとしたら、高島君が焦ったような声を出した。

『待って、メモするから』
「……続けるよ? 不動産の権利書と、会社の資格証明書」
『うん』
「代表取締役の印鑑証明書、担当者の本人確認書類、抵当権設定契約証明書、そして司法書士に対する委任状よ」
『……いっぱいあるんだね』

 高島君が当惑したような声を出した。

「それくらい、権利とかそういうのって、厳しいのよ」
『わかった。また連絡するよ』

 高島君はそう言って電話を切った。

 抵当権、すなわち担保を借りるための書類は今まで何度か作ったことがある。いつもどおり仕事をこなすだけだと、私はこのとき考えていた。

 この同級生の頼みが、私の司法書士生命を揺るがすことになるなどとは、少しも想像せずに。

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