深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
8. 猫は泣いた





それから一週間後。
私はユウさんの出演するCM撮影に同行している芦谷さんについてきていた。


といっても芦谷さんは今うちの会社の広報部長と打ち合わせをしていて私はひとり。
撮影のじゃまにならないよう隅っこでユウさんと彼を囲むカメラを眺めていた。



「すごいなぁ…」


煌びやかな世界の真ん中に堂々と立つユウさんを見て、私はため息をついた。


―――私なんかには一生縁がない。
いや、縁があったとしても困っちゃうんだけど。


広報部長から渡された資料を胸の前で抱え、なんだかいたたまれない気持ちになった私はいつの間にか撮影から視線を逸らして足下ばかりを見つめていた。





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