ランデヴー II
【latter love】

<揺れる想い>

「紗英ちゃん、これダブルチェックお願いしてもいい?」


「…………」


無言で書類を受け取る彼女に、溜息を吐き出したい気分になる。



私が15Fから戻ると、紗英ちゃんは既に席で仕事をしていた。


だが何だか身が入らない様子で、何度も手を止めてはこれ見よがしに溜息を繰り返している。


そして、私の言葉には全く反応を示さない。



完全に私の存在を無視したようなその態度に、いい加減イライラが募る。


こんなにも訳のわからない振る舞いをされ、怒りたいのはこっちの方だ。


でも端から見ていると、きっと私の方が悪者に見えるのだろう。


紗英ちゃんは時々弱々しく俯きながら、涙を堪えているのだから。


そんな彼女に無理矢理事情を問いただすこともできず、社内では彼女にこれ以上関わらない方が賢明だと判断した私は、とりあえずそっとしておくことにした。



幸い私達のことはそこまで広まっておらず、知らない人も多いようだった。


別の部署の女性がコソコソとこちらを見ながら話しているのが目に入ったが、だいたいの人は我関せずといった様子か。


ただ、目撃した人達はまるで腫れ物に触るかのように接してくる。


そして彼らの紗英ちゃんを見る目は、皆一様に同情的だった。
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