ルージュはキスのあとで
もしかして……私!?

3 まさか……私!?




「すみません、ちょっとお時間いいかしら?」



 私の肩をポンと叩いて、そう声をかけてきた女性に視線を向ける。

 その女性は私の顔をジッと見たあと、なにかを確信したようにキレイな笑みを浮かべた。

 私より年上のお姉さんであろうその女性は、私のほうを見て口を開く。



「あなた、コスメとかって興味ある?」

「へ?」



 突然言われた言葉に私は首を傾げる。

 そんな私の様子を見て、その女性は慌てたようにスーツのポケットから名刺を取り出して私と彩乃に差し出した。

 私と彩乃は、その名刺を受け取って、まじまじと名刺を見つめる。

 先に言葉を発したのは彩乃のほうだった。



「かわみち堂出版……皆藤 桐子(かいどう きりこ)さん、ですか」

「ええ。私、かわみち堂出版から出しているファッション雑誌『Princesa』を担当しているんだけど」

「えー!? 私、いつも買ってますよ」



 興奮気味に彩乃は、皆藤さんに向かって笑った。

 私もそこでようやく、彩乃が毎号買って私に見せてくれているファッション雑誌のひとつだったなぁと頭の片隅で思い出す。

 チラリと隣の彩乃を見れば、目がキラキラ輝いている。

 私はそんな彩乃に苦笑しつつも、このあとの話の流れはなんとなく読めたな、と思っていた。

 きっと声をかけたいと思っていたのは彩乃のほうなのだろう。


 
 かわいい彩乃なら、ファッション雑誌の担当者のおめがねに適うだろうし。

 ファッション雑誌によくある『読者モデル』になりませんか、という話だろう。

 間違っても私じゃないことだけは言い切れる。



 そうとわかればと、私はそのふたりから少し離れて傍観しようとしていると、皆藤さんは私の腕を掴んだ。



「へ?」

「ねぇ、私はあなたにお話を聞きたいのだけど」

「は?」


 なんのことだかわからずポケッと口を開けていると、皆藤さんは目尻に皺をいっぱい寄せてほほ笑んだ。

 チラリと彩乃を見れば驚いたような顔をしたあと、じわじわと喜びがこみ上げてきたとばかりに満面の笑顔になった。




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