死が二人を分かつまで
青春の日々
「あ」
泡で濡れた手が、皿を捕らえ損なった。
床に落ち、派手な音を立てて砕ける。
「おいおい、またかよ!一体何枚割るつもり!?」
薄い壁を隔ててすぐ後ろに位置するカウンターから、マスターの不機嫌そうな声が聞こえた。
髭面でパンチパーマ。
身長は低いがガッチリとした体格で、眼光鋭いマスターに睨まれると、たいていの人間は震え上がる。
その位置では表情までは見えなかったが、もちろんわざわざ確かめるつもりはなかった。
「すみませんっ」
進藤は慌てて手の泡を洗い流し、タオルで水気を拭き取ってからしゃがみ込む。
「大丈夫?」
皿のかけらを拾っていると、背後から声をかけられた。
小夜子さんだ、とドキリとする。
「は、はい、大丈夫です……あイタっ!」
一瞬振り向いてしまったので、かけらで指を切ってしまった。
「あ~、ダメだよ。素手でやっちゃ。ちょっとこっち来て」
進藤は、指を舐めながら彼女の手招きに従い、厨房から通路へと出た。
すぐ左手が店の裏口、右に進むと店内のホールに出られるようになっている。