愛を教えて ―背徳の秘書―
(6)悪い男
昨夜、雪音が藤原邸に戻ったとき、すでに卓巳は帰宅していた。


『今日は早めに切り上げたんだが……。宗は色々雑用が多くてね。私もすべては把握していないんだ』


当初予定していた休日に秘書を呼び出したため、卓巳なりに気を回したらしい。もちろん、万里子の口添えに違いない。

早めに帰して恋人に会いに行かせたつもりが……。気遣いが裏目に出たことを知り、卓巳は慌てて言い繕っていた。



宗がこれまで、複数の女性と付き合っていたことは知っている。ふたりが親しくなったのも、彼が横浜の女性に会いに行くとき、車に同乗させてもらうようになったのがきっかけだ。

他には、卓巳の従妹である静香との関係を間近で見たくらいか。


宗と静香は、主に藤原邸内で情事を繰り返していた。それは、愛し合うというより、スリルを楽しんでいるかのようなセックスだった。

そんな宗に雪音は尋ねたことがある。


『見られるのが好きなの?』

『いや、見られたら困るっていうギリギリが興奮する』


本気か冗談かわからない返事だった。変態を見るような目つきになる雪音に、宗は続けて答えた。


『嘘だよ。うちの社長は女のご機嫌取りは苦手でね。でも、飢えた女王様の餌にされたら困るんだ。恋人のいない俺には性欲の解消になるし、女王様もご満足。社長にも攻撃が行かない。一石三鳥だろう?』


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