愛を教えて ―背徳の秘書―
(17)死を呼ぶ花束
すぐにやって来ると思った宗は会社を早退したと言う。それは朝美が知る限り、初めてのケースだ。

そして、志賀香織も病欠……。宗は香織に呼び出されたに違いない。


(ムカつく小娘《ガキ》だわ。宗が香織とセックスしてたら面白いのに)


朝美は麻酔が切れ、痛み始めた右足を擦りながら、頬を歪めた。


宗が女を部屋に連れ込まないのは有名な話だ。

朝美は仕事の関係で宗の車に乗ったことはあるが、プライベートでは皆無である。あの静香お嬢様にねだられても、理由をでっち上げて断わっていたはずだ。それが……。


(何が、愛してる、よ!)


雪音自身は気づいてもいないが、朝美に『自分が宗の本命である』と宣言したも同然だった。


社長の第一秘書である朝美は、社長宅へはわりと頻繁に出入りしている。

当然、雪音との関係もすぐに気づいた。だが、いつもどおりの遊び相手としか思っていなかった。

しかし昨夜、宗が口走った名前に朝美は疑惑を持った。さりげなくぶつけてみたが……どうやら間違いないようだ。


昨日の朝、階段から落ちたというのは、朝美の“作りごと”だった。ストッキングが破けたときに思いついたことである。

包帯を巻き、足を引き摺れば、表情などはメイクでどうとでもできる。医者には階段から落ちた、痛いのだ、と訴えれば捻挫と診断が出るだろう。

予想通り、宗は彼女を部屋まで送り届けてくれた。


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