ビロードの口づけ
12.欲するもの
 理由が知りたい。
 たとえどんな理由があったとしても許しがたいとは思う。
 けれどコウの憶測ではなく真実が知りたい。


「見たくて見たわけではありません。むしろ見たくはありませんでした。どうしてお母様なんですか」


 許すことができなくても、二人が愛し合っているなら百歩、いや千歩くらい譲れば仕方ないと思えるかもしれない。

 不実な関係を見られたというのに、ジンはまったく悪びれた様子もなく余裕の薄笑いを浮かべて答えた。


「誘われたからだ」
「お母様を愛しているの?」
「別に」


 パンと派手な音が響く。
 気付けばクルミは、反射的にジンの頬を打っていた。

 打たれた頬を軽く撫でて、ジンは不愉快そうに眉をひそめる。


「なんであんたが怒るんだ」
「いくら誘われたからって、愛してもいないのにあんな事っ……! お母様に失礼です」


 拳を握りしめ頬を紅潮させて怒鳴るクルミをジンは冷ややかに見下ろした。

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