溺愛MOON
プロローグ
乗り心地の悪い、狭苦しいシートの上で私は波に揺られていた。


「はぁ……」


30人ほど運べるその客船に乗客は、私以外誰もいない。

船酔いした訳でもないのに溜息ばかりが口から漏れる。


私は遠い目で窓にかかる波しぶきを見つめた。


メランコリー。

今の私を一言で表すならばまさにこれ。


憂欝の固まりだ。


退職勧奨を受けたのは先々月のことだった。

不景気という世間の荒波は契約社員の私から働く場を奪った。


大手の化粧品メーカーに契約社員だけれど入って浮かれていたのは、短大を出た2年前のことだった。
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