主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
最終章 目覚める
「ううむ…」


晴明の部屋に居座ってへばり付いて離れない息吹がうつ伏せになって頬杖をつきながら貝合わせをして遊んでいた時晴明が唸り、息吹が顔を上げた。

帰って来るなり満足に食事も摂らず、天地盤の前に座して何事かを占っている晴明の邪魔は絶対にしたくないので声をかけずにそのまま見つめていると、気配を感じたのか晴明が顔を向けて肩を竦めた。


「なんでもないよ」


「そう?難しい顔してたよ」


「そうかい?私は元々気難しい顔をしているからねえ。堅物の十六夜には負けるが。ああ、堅物といえどあれはなかなかの色物だからあまり挑発したりするのではないよ」


「は、はい」


――晴明はまた天地盤に目を遣り、唇を引き結んだ。


…息吹の星回りが悪すぎる。

元々幼い頃から星回りは良くなったことがなく、今回は“大凶”と出て晴明の頭を悩ませていた。


「ねえ父様、今度私に耳と尻尾を下さい。きっと主さまが喜んでくれると思うの。尻尾を触ってもらうの」


「助平だねえ」


「え?銀さんも言ってたけど…尻尾を触るのは…その…す、助平なのっ?」


「そうだよ、触られると腰砕けになってしまうんだ。…おや?顔が赤いがまさか十六夜の尻尾をしこたま触ったのではないだろうね?」


薄目で睨まれて慌てた息吹は、晴明に嘘はつけないので曖昧に頷きながら貝を晴明の膝に弾いてぶつけさせた。


「触ったけど…じゃあ私に尻尾が生えたら触ってもらわない方がいい?」


「ふふふ、その時は私が十六夜に何かしらの仕返しをするかもしれぬな。さあ息吹、もう部屋に戻りなさい。式神を連れて行くんだよ」


「はい。父様おやすみなさい」


幼い頃から変わらない笑顔で手を振って部屋を出て行った息吹を見送った後、晴明はまた難しく厳しい表情に戻って天地盤と同じく占いの時に使う八卦爻を取り出した。


縋れるものなら何にでも縋りたい思いだ。

空海が息吹に施した得体の知れない術が及ぼす影響が現段階で計り知れず、五行に長け、占いに長けた晴明は少しでも息吹の星回りが好転するように願いながら香を焚き、翌朝まで眠ることはなかった。


――そして息吹は夢の中で不思議な人物と会った。

やわらかい笑みを浮かべたその人を、どこかで見たことがあった。
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