一緒に暮らそう
惣菜屋の色っぽいオネエチャン
斉藤新多は今年で35歳。いまもって独身。世界に名立たる総合電機メーカー、トイダ製作所の研究開発チームで主任をしている。本社から日本海側の地方都市に出向して、3回目の冬が終わろうとしていた。

いつものように、気が付くと研究所の窓の外はとっぷりと暮れ、今冬最後と思しき雪が暗がりの中で舞っている。
「主任。今晩飯どうします?」
 仕事を一段落させた部下がたずねてくる。
「うーん? 今日も適当に済ますかな。デリバリーの丼もの屋から中華丼でも注文するよ」
「そうっすか。ねえ、国道沿いの惣菜屋行ってみてくださいよ。例の、元キャバ嬢のお姉さんがやってるって噂の店」
 社の男連中の口の端に時折上る店だ。その店は鄙には稀な美人が切り盛りしているが、なんでも彼女は東京にいた時にワケありの仕事をしていたらしい。
「ふん、くだらない。俺はパスする」
 盛り場へ飲みにいくわけでもあるまいし、そんないかがわしい女のいる店など行きたくはない。
「そっすかぁ。俺、何回かあの店で夕飯買ったんですけど、色っぽくてキュートなお姉さんがやってましたよ」
「興味ないね」
 新多は部下の勧めをあっさりと一蹴した。
 くだらない。くだらないったらありゃしない。
 惣菜屋はおかずがうまければそれでいいのであって、店員なんかどうでもいい。そんないかがわしい女の作る料理がうまいとも思えない。
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