エゴイスト・マージ
Start of the game
「スミマセン。君が生徒である以上
付き合うことは出来ません」


また告白されてる
この光景を見るのは
これで一体何度目だろう

「じゃ卒業したらイイんですか?」

「その頃にはもっと良い人が
現れますよ」

先生はお決まりのセリフを
お決まりの笑顔で返すだけ

みんな先生の上っ面だけを見てる

バカみたい……先生も
そんな先生に告白してる女の子も

……そう思っていたのに
ほんの少し前までは






いつものように
授業の終了チャイムが鳴り始めて
教科書とお弁当を持って
科学室に行こうとした

……その足が止まる



また、か




「好きってフツーそんなにサラリと
言わないでしょう?
一応先生と生徒だから
結構問題発言なんですけど」

苦笑した顔でまいったなと呟く先生の
傍には三年生らしき女生徒がいた

「もうー先生ってばマジなのにぃ!!」

「はは。勿論、光栄ですよ。
どこがいいんですか?」

「全部!」

「全部、ですか」

「僕が教師じゃなかったら君の事
躊躇いなく好きになってたでしょうね」

いかにも残念そうな言葉で
諭すように先生は腰を
屈めてその子に笑いかける

「君は、本当に可愛いから
僕じゃ勿体無いですよ」

「先生が良いの」

それでも食い下がる子に

「ね?」

と、有無を言わせないダメ押しに
ついにその子は泣き出してしまった


不意に

見慣れてる筈の場面なのに
何故か私はその子に同調して
突然言いようの無い感情が
込み上げて来きた

その気持ちが何なのか分らなくって
知りたくもなくって

私は自分が何故今泣いているかとか
考えちゃいけないのに

無意識に理由を模索する心は
締め付けられる程、息苦しさを増す

いつかその感覚が
取れなくなりそうで怖い


告った子が泣き止むまで
抱きしめてる先生の目は
いつも虚を見つめていた

きっとその目に誰も映すことは無く
誰の声もその心には届くことは無い

先生の中で言葉は特有の意味をなさず

風や雨の音みたいに聞き流しては
気にも留めていないのだと私は知っている

人の感情の複雑さを思い図る事を
放棄したまま
先生は生きているように思えた

見えない心を欲しいと思う欲

そう思うだけで走る痛み
この所在の在り処は

もう一つしかないというのに


今にして思えば
父兄や他の先生と付き合ったり
してたからといって私
が口を出すことじゃなく

取り立てて見張る必要なんて
なかった

本当はもう、あの時から……


だから無意識に理由を
探していただけかもしれない

私はずっとそれに
気が付かないフリを懸命にしていた



だけど、それも限界が近い

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