獣は禁断の果実を蝕むのか。
獣の素心

「退職金代わりに差し上げますよ?」


緩んだ口元は、何かを企んでいるかのように見える。


だけど、そんなのは関係ない。


「いりません。どうせ、明日には、警察の拘置所ですから。」


ただ、皆瀬さんには何て言ったらいいのかな?


それだけは…心苦しい。


でも、これ以上は専務には迷惑かけられない。


「聞いたはずです。覚悟はできているのかと…」


やっと、今になってその言葉の意味が理解できた。


犯罪者になって、借金を背負う覚悟はあるかって聞いたんだって。


「はい。できています。だから、安心してください。今まで、付き合って下さって、ありがとうございました。」


深くお辞儀をすると、クルリと方向転換して。


一歩足を踏み出した。


グイッと引っ張られた腕。


驚いて振り返った。

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