平成のシンデレラ
第五章 ~from her viewpoint~

三週間の契約期間を穏やかにとは言えないが何とか無事に終えた私は
電車で東京に戻るはずだったのに、最終日にやはり都内へ戻る優登に
「経費節約だ」と彼の車に便乗させられてしまった。
幸か不幸かこの三週間の間に、こういう彼の強引さにも
キスの一つや二つにも、それから・・・スキンシップにも
もう動じなくなった。
慣らされてしまったと言えなくもないけれど、少し違う。
自然なままで寄り添っていられる、そんな感じだ。


とは言え、この先この次の約束をしたわけじゃない。
改めてどうこうしようと申し出があったわけでもない。
でも私の内に確信がある。始まりの言葉など無くても
もう始まっているのだと。


一日前に戻ってきた執事のムッシュ白川と、事務的な手続きと挨拶を済ませ
彼のあの柔和な笑顔に見送られて私は屋敷を後にした。
この後の屋敷の後始末と管理維持に関しての諸々の手配をするために
あと一日残るというムッシュのために簡単な食事を支度をしたら
いたく恐縮されてしまった。


「優登さまが大変褒めておられたお料理をご相伴にあずかれるのは光栄です」
「そんな大したものじゃありませんから!」
「いえいえ。3度のお食事はもちろんのこと・・・なんでも
お夜食にご用意された物が一風変わった大変美味なお料理だった、と
優登さまはとても満悦なご様子でしたし、私も楽しみです」



あんのやろう! 
ムッシュには内緒だってあれほど言ったのに!



「は、はぁ」


実は自分用にカップ麺やカップスープ、レトルトなどのインスタント食品を持参していた。
勿論こういうお屋敷での仕事で食に困るワケではないのだけれど
あまりにきっちりお料理された物ばかり食べていると
無性にジャンクな食べ物が恋しくなったりするからだ。
こっそりキッチンでいただく密かな楽しみが優登に見つかったのは7日目の深夜。
俺にも寄越せ、と食べかけを取り上げられ、改めて開けたもう一つも結局彼に横取りされた。


「こんなものは犬のエサだと思っていたが、結構食えるものだな。」
「2個も食べておいてよく言う…」
「何か言ったか?」
「いーえ!何も」


聞けば、こういうジャンクフードを食べたことがないと言うから驚きだ。
ああいうものは身体にはあまりよくないからと麺類やファーストフードの類の軽食は
ムッシュ白川がお抱えのシェフに作らせていたのだそうだ。


「白川が戻ったら、そんなに悪くなかったと教えてやろう」


家にも買い置きしておけと言っておこうか、なんて真顔で腕組みをしている。


「ダメ!!白川さんには絶対言わないで」
「どうして?」
「やめてよ!私が叱られるでしょう?」


優登さまは冷凍食品や出来合いのものは一切召し上がりません、と
最初に言われているのに、インスタントものを食べさせたとあれば
大目玉を食らうに違いない。


「なら、黙っててやる。その代わりに・・・」


絶対何か企んでいそうな眼と意味ありげな間が怖い。


「代わりに?」
「お前一人で食うのは禁止」
「素直に食べたいって言えばいいのに!」
「昼食はカップ麺ばかり食わされた、と白川に言ってもいいんだぜ?」
「わかった!わかったから!白川さんには内緒よ。絶対」


その後、口止め料だとキスまでさせたくせに、アイツめ~!


口惜しい思いは拳に握りこみ、いつか仕返ししてやると心に誓って
強張った笑顔のまま助手席に乗り込んだのだった。


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