NY恋物語

「ここは?」
「私のアパートよ?」


つれてこられたのは閑静な住宅街の一角。
NYの街の中にもこんな静かで
落ち着いた場所があるなんて・・・と
思わず口を突いて出た言葉にヨーコは
「NYはどこもかしこも喧しい繁華街だとでも
思っていたの?」と呆れたように呟き
ドアのカギを開けた。


「さぁ入って」


ヨーコに背中を促され
入った部屋は
極めてシンプルに纏められ
家具もシックで洗練されていたが
ファブリックはローラアシュレイだろうか?
クッションやソファーの色合いには
暖かみを感じさせた。


「バスは右手のドアね。
タオルでもなんでも
好きに使ってくれていいわ。
キッチンは向こう。
冷蔵庫に飲み物が入ってるから
好きに飲んで。ああ、でも食べるものは
ロクなものがないから
この少し先のマーケットで買うといいわ」


そう言いながら
左手のドアに消えた彼女が
大きなピローとブランケットを抱えて来て
それをソファに放り投げた。


「眠くなったらコレを使って。
ソファで悪いけど」

「ありがとう…あの」

「なに?」

「どうして…ヨーコさんの部屋に?」


ワケがわからない。
敵意むき出しで散々こけ下ろした私を
いくら泊まるところがないからと言って
自分の部屋へ連れてくるなんて。


「仕方ないでしょ?
いくらホテルが取れないからといって
そこいらのモーテルなんかに
アナタを置いてきたと知ったら
秀明は仕事を放りだして
すっ飛んでいくでしょう?
それじゃ困るもの」


ふぅと短く息をついて
「はい」と投げて寄越したのは
この部屋のカギだった。


「電話は留守電になってるから
出なくていいわ。
ああ!それから左側のドア。
そこは絶対あけないで!
それ以外はどこを使っても構わないから」


左のドアと言うと・・・
さっき彼女がブランケットと枕を
抱えて出てきた部屋だ。
さしずめベッドルームといったところか。
留守の間によく知らない他人に
寝室を覗かれたくない気持ちは解る。
だから開けたりはしない。


「後で秀明から電話を入れさせるわ」と
慌しく出かけるヨーコを見送った。


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