バージニティVirginity
熱海の保養所
ウエイターやウエイトレス達は、大学生や主婦、フリーターが多かったから、人の出入りも激しかった。

ウエイターは黒服、ウエイトレスはモーヴ色のワンピースを着用する。


二年前、玲がパート採用されて、初めてユニフォームを着た時、スカート丈が意外に短いので驚いた。

他の人はそんなことないのに、玲が着ると短い感じになってしまう。

胸もきつかった。

ワンサイズ大きくしてみると、今度は、肩幅やウエストが余ってしまい、不格好だった。

なで肩で上背のある玲は既成の洋服、特にワンピースが合わない体型だった。


マネージャーは玲の胸を見ながら、少しきつい方のユニフォームの方でいい、と言った。


男女問わず、日常生活の中でも玲の胸に視線を留める者は多かった。
そんなことはとっくの慣れっこだから、別になんとも思わない。


短い休憩時間は終わり、玲は仕事の終わったサトルに手を振ってラウンジに戻った。




その日の夜、帰ったはずのサトルは、従業員通用口の前で、玲を待ち伏せしていた。

「ちょうど、友達と別れたところだったから。貴女に逢えるかな、と思って」
サトルは言い、玲を上目遣いに見た。


(この子は私と寝たいんだ…!)

玲は直感した。





7月下旬。夏休みに入り、玲の働くホテルのラウンジは再び繁忙期を迎えた。

アクセスの良いホテルだから地方からの観光客で館内は溢れかえっていた。

ラウンジのメニューは恐ろしく高いにも関わらず、お客がひっきりなしにやって来る。
調理場も給仕も増員された。



「南沢さん、八月、もうちょっと出れない?」

先月、マネージャーに言われた。

「八月は実家に帰るので、無理ですねー」
玲はにこやかに、即座に断った。


毎年お盆を過ぎた頃、玲と佳孝は玲の小田原の実家に行き、その足で佳孝の教習所が契約する熱海の保養所に一泊するのが毎年の恒例行事だった。

今年も、佳孝は保養所を予約してくれた。

建てられて何年も経たないその保養所は、保養所と言う名がもったいないくらい高級感があり、和室の部屋は広く明るく清潔感があった。
提供される和会席料理も美味しい。


玲と佳孝は新婚の時から毎年訪れているリピーターだった。

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