執事ちゃんの恋
第2話


  第2話


 ――― ついにこの日がやってきてしまったか。


 ヒヨリは、霧島本家にある奥座敷にちんまりと正座をして背筋を伸ばす。
 
 明日はヒヨリの誕生日。ついに20歳になる日がくる。

 ヒヨリは、そっと目の前に難しい顔をして座っている霧島当主であり、ヒヨリの父でもある宗徳を見た。

 向こうも向こうで、なにかヒヨリに言いづらそうにしている。


 さっさと言ってくれたほうがいいのに。そうしたら諦めがつくのに。

 ヒヨリは、もう決まっているであろう事項を口に出せない宗徳をみて、こっそりとため息をつく。


 静岡の山間に根付く霧島一族。

 表向きは、お茶問屋として全国に名を馳せている家。

 しかし、それは表向きの顔。


 本業は、江戸時代から続く名門中の名門。文月家の従者の業をなしている。

 東京を拠点として、日本国内に留まらず、世界にも名をとどろかせている文月家。

 ビジネスはもちろんのこと、芸術肌の人間も多く、アーティストとして活躍している者も多い。

 そんな文月家と霧島家との縁は江戸時代から、ずっと続いている。
 主従の関係だが固い信頼関係が保たれ、文月家が経営している会社には、すべて霧島家から派遣された人材が要所に配置されている。

 もちろん昔から続いている縁だけで、こんなふうな現状になっているわけではない。
 霧島は、文月家に仕え支えるために、小さい頃から厳しい勉学をしいられている。

 特に。霧島家本家に生まれたものは文月家の当主に後々は仕える役目を司ることになるので、ほかの霧島家縁者とは比べ物にならないほどの英才教育がなされるのだ。


 それはヒヨリも例外ではない。


 ただ、霧島本家の女子は文月家に直々に仕えることはほとんどない。

 と、いうのも霧島本家の女子は、家の繁栄を支えるという役目があるからだ。

 要するに、20歳の誕生日を迎えると家が決めた由々しきどこぞの家と縁を結び、婿養子を霧島家に迎えるのだ。

 次世代の文月家後継者を支える人材を産み育てるという大事な仕事が霧島の女にはある。


 霧島の女、すべてが婿養子を迎えるわけではない。ただ、本家の女子は確定している。そう、生れ落ちたときから決まっている運命。


 だから、ヒヨリも覚悟はしていた。

 20歳になったら、当主である自分の父から結婚相手が言い渡される。

 で、時を見て結婚。それが慣わしだから。


 ただ、ヒヨリの本心的にはそんな結婚は白紙にしてしまいたい。

 心の中は、健のことでいっぱいだから。



 ――― でも、これが運命。生まれたときからの運命だもの。



 そう自分に言い聞かせる。

 ヒヨリがなんと言おうと、決まっているものは覆すことはできない。

 それが、霧島本家の女の運命だから。








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