月の大陸
自分の願望のままに小説を書きたいんです!
仕事の無い休日は、近所のカフェで小説を片手にモーニング
モダンな店内に流れる爽やかな音楽
挽きたてのコーヒーに香る溶けたバターの芳香に酔いしれながら
大好きな小説を読むのは
菅原葵(すがわらあおい)にとって数少ない幸福の時間だ


彼女はどこにでもある様な中小会社の事務員である
小説を読むのが好きで
趣味は読書


事務員のスズメの涙ほどの給料じゃ
「ゴルフ」「スポーツジム」「お料理教室」なんて無理無理無理!

一人暮らしだし貯金は命だし
だから読書はお金もかからないし一番向いていると思う
文庫なんて中古なら驚くほどリーズナブルに買えちゃうしね
というなんとも堅実的な性格である


葵は読み終わった文庫をテーブルに置いて一息付いた
煙草に火を付けながら今まで入り込んでいた世界に思いをはせる

んー…やっぱりハッピーエンドは好きだけど
この人じゃなくてこっちのダンディな執事と結ばれて欲しかったなー


なんて自分の願望を思い描きながら
勝手にストーリを頭の中で変えてみる




…うんうん
こっちの方がしっくりくるよね…

変に納得したところで
バッグから手のひらサイズのノートを取り出す

これは
所謂、「ネタ帳」である
彼女はネタ帳を広げるとさっそく今思い描いた内容を書きなぐった

ネタ帳にはとある魔法世界が書いてあった
もともとRPGが好きだったため
魔法の種類や武器
登場人物はもちろん国々の名前や特徴まで事細かに書かれている

葵は読み返しながら
もうそろそろ自分にも小説を書けるのではないかと思い始めていた

今までそれなりに納得できる小説や本当に感動するのも読んだけど
やっぱり、自分の願望通りに書いて読んでみたい…
記念に一冊の本にするでも良いし
…文章能力は微妙だけど
でも、このネタ帳があればなんとかなるはず


完全なる見切り発車であるが
葵は根拠のない自信と今までに感じた事のないやる気に満ちていた



自宅に帰ってさっそく葵はいつも利用している小説サイトを開く
既にアカウントは作ってあるしユーザー名も登録済みなので
スムーズにマウスを動かす
そして、までは「読者メニュー」ばかりだったが
今日…初めて「作家メニュー」をクリックした

続けて「新作を書く」をクリックする

小説の題名は決めていた
「月の大陸」
物語の舞台となるのは三日月型の島と満月の型の島からなる魔法世界
この設定はネタ帳を作るときに最初に思い浮かんだ事だったので
葵の中では譲れない大切な部分だった


魔法世界「スターツ」
主だった大陸は二つ
人間や動物が住む三日月型の大陸「クレセント」
精霊や聖獣が住みクレセントよりも小さい満月型の大陸「セレ―ナ」

ノートをもとに葵は物語を紡いでいく

お気に入りのRPGミュージック集にアロマの香り
絶好調で執筆を開始していた彼女だったが

気が付けば時間は真夜中を過ぎ
さすがに眠気が襲ってきていた



…眠いな…

後少しだけ書いたら寝よう…

そう思いながらもなかなかパソコンから離れられず
葵はそのまま眠りに落ちた

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