月の大陸
謎は全て解け…ません!
シコラックスはミランダの三番弟子で赤毛を二つのお下げに編んだ
小柄な幼い少女だった
プロスぺローはエアリエルの一番弟子で黒髪をボブに切りそろえた少女で
カリプソ同様次期魔女候補だ

ミランダとエアリエルはそれぞれ四人の弟子を持ち
一番弟子を自分の統治する森から一番離れた国に
二番弟子は大陸の真ん中セテポス王国に
三番弟子たちは統治する森の一番近くの国に駐屯させていた

王国には常に二人の魔法使いが駐屯し国の均衡を保ったり
魔法学、薬学を教えたりしている

兵士に案内されて入室してきた二人はステファーノの前で礼を取る

「お呼びにあずかり馳せ参じました。」

「ああ、急に呼び出してすまない。
ミランダだけでは守備などこれからの話し合いに不利かと思ってな。」

プロスぺローの言葉にステファーノは砕けた口調のまま話したので
少し二人に戸惑いの色が見えたがそれでも恭しく頭を下げた

「お師匠様!久しぶり!!倒れたって聞いたけどもういいの?」

「ミランダ様お久しぶりです。
我が師より今回の事件解決の為に
ランダ様に仕えるよう指示を受けております。どうぞお役立てください。」

シコラックスに続いてプロスぺローがミランダに向き合った

「二人ともお勤めごくろうさま。シコラ、私の体調はもう大丈夫。
心配掛けてごめんね。プロスにも今回は何かと迷惑をかけるかもしれないけど
貴女の協力が得られるだけで心強いわ。」

ミランダが笑顔で返すと二人はしっかりと頷いた

「ミランダ殿、体調が悪いのですか?」

「え?あ。いえ。どうぞお気になさらないでください。
もう平気ですから。それよりも話を進めましょう。」

セリクシニの言葉をサラリと流して地図に向かう
そんな彼女を見つめるセリクシニの顔はいささか不満げだった

「一番最近の事件が約5日前。…ここだ。市場の裏通り。」

ステファーノが地図をたどる
王都アドラスティアは城を中心に東西南北に向かって一本の大通りが整備され
それを境に北区、東区、南区、西区と別れていた
北区は主に貴族たちの居住区
東区は商業区で宿や店・工場などが軒を連ねる
南区は行政区で神殿や裁判所があり
西区は学業区で学校・図書館・病院などがある


「時刻は深夜一時過ぎ。帰宅途中の行商人が襲われています。
目撃証言は一件だけですが、黒く大きなイノシシらしいものが男をなぎ倒し
腸を啜っていたと…。それ以外は気が動転していまい覚えてないそうです。
すぐに守備隊がきましたが、残っていたのは男の残骸だけでした。」

セリクシニが読み上げる報告書を聞いて皆一様に表情が曇った

「どこでも構わず人を襲っているが、犯行は全て夜なんだな。」

ステファーノが言った
すぐにセリクシニが答える

「はい。ほぼ全てが真夜中過ぎです。」

「魔獣の力は闇が深まれば強くなります。
真夜中過ぎは暗刻。一番闇が深まる時をねらっているのだと思います。
…それにしても…魔獣は突然現れたのでしょうか?」

ミランダの問いにセリクシニはデジュメをめくるが答えはない

「それが何か関係あるのか?」

ステファーノの声にミランダはもう一度地図を見た

「いくら、闇にまぎれて移動したとしても
そう何度も誰にも見つからず移動するのは不可能だと思います。
見つかれば襲えばいいでしょうが、見たところ
一晩に一人しか襲われていない様子。

だとすれば移動には転移の魔法陣を使ったと考えるべきかと…。」

「なるほど。流石ミランダちゃん!」
カイルの声が上がる

「だが、魔獣を飛ばせるほどの転移魔法陣を
すぐに用意することなどできるのか?」

「恐れながら…師やミランダ様の様な優れた魔法使いでもない限り無理です。
私や次期魔女候補のカリプソでも難しいかと。」

「私や他の姉弟子たちが来ても無理だよねー。
っていうか、そもそもあんな大きな魔獣を転移なんてしたら
一回で魔力全部吐き出しちゃって死んじゃうかも?」

ステファーノに答えるプロスぺローの横でどこから取り出したのか
ピンクの巨大なペロペロキャンディーを頬張りながらシコラックスが言った
真っ黒なローブに身を包んだ8才程度の少女が
大人用の豪奢なソファに腰掛けている様はどこか滑稽である

「そうね。普通の魔法使いなら一回の転移だけで命を落とすかもしれない。
シコラのように強大な魔力と驚異的な身体回復能力が無ければ難しいわ…。」

ミランダの言葉にまるで自分の幼い妹の様に
シコラックスを見ていたカイルとロザリンドは驚愕した

一見すればただの少女なのにやはり魔女の弟子である
しかも、これで三番弟子と言うのだから他の姉弟子たちがどれほどの者か
二人は想像しただけで胃がギュと縮んだ

「…転移ではなくて隠すのではどうでしょうか?」

セリクシニの言葉に全員が彼に視線を向ける

「どういうことだ?」

「ですから、どこかほかの場所に移すのでなく
見つからないように隠すのです。一番怪しまれない場所に。」

「一番怪しまれない場所?」

カイルが首をかしげる横でロザリンドがハッと顔を上げた

「住宅…市街地…。」

「そうか!!
犯人は街の住人に成りすましているのか!」

カイルも声を上げる
それにセリクシニも頷いた

「私たちは今まで外部からの犯行とばかり思い侵入場所ばかり探していました。
しかし、王都内に住む者の犯行なら侵入場所は無くて当たり前。
それに、大がかりな転移魔法が無くても
隠ぺい魔術なら式は比較的簡単に出来ます。」

「そうですね。あらかじめ犯行現場に隠ぺい術の式を造っておき
犯行後その式に入ればその姿は完全に隠れて見破るのはほぼ不可能。
その間魔獣を眠らせておけば、抵抗はないし事件の騒ぎにまぎれて
そこから移動させることも可能だわ。」

セリクシニとミランダの話にそこにいる全ての人間が頷いた

「よし。犯行のからくりは解けた。
後はどうやって犯人を捕まえるかだが…。」

「それなんですが、私に案があります。」

ステファーノに答えるミランダが言った
それは、ついさっき思いついた物

「トラップを仕掛けるんです。」

「トラップ?!」

ミランダの案にカイルが声を上げた

「ええ。私が王都全体に結界を張ります。
そうすれば王都全体の動きがつかめるようになる。
そして、魔獣が出現をいち早く感知し出現した場所に
兵士を転移させるんです。」


「…そんなことできるの?!
王都全体ってどれくらいの広さかしってる?」

なおも続くカイルの驚愕の声に
シコラックスが舐め終わったあめの棒を彼に向け鋭い視線で抗議する

「お師匠様はメティス山脈からアルコルの森を含む大陸の北側
全てに魔力を伸ばし掌握している。セレ―ナ大陸から飛ばされる強力な魔力から
結界を張ってみんなを守っているんだよ!

お師匠様はそこらへんの魔法使いとは訳が違うんだからね!」

「なっ…北側の大陸全て…?!」

「こら!シコラ!!カイル様に失礼でしょ。
やめなさい。それに、私はただすべき事をしてるだけよ。何もすごくないの。」

「…だって…。」

「だってじゃなくて?」

「はーい…。」

ミランダにたしなめられてシコラックスはしぶしぶ席に戻った
しかしシコラックスの爆弾発言によって
彼らのミランダを見る目が変わっていた
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