俺と初めての恋愛をしよう
迫りくる上司
 アパートに戻った今日子は、お昼に食べ損ねてしまったお弁当を食べることにした。
睡眠不足に、対応しきれないことが重なってクタクタだ。何もしたくないが、おなかは空いている。部屋着に着替えて、やっと落ち着く。
 ふと、過呼吸になった時のことを思い出す。後藤が発作を抑えるためにした行動だが、唇が重なった。自然と自分の唇に触れる。こんな形だったが、今日子のファーストキスだ。30にして初めての。明日、どんな顔で会ったらいいのだろうか。
人と触れ合うことを極端に嫌っていた今日子が、何もかもをすっ飛ばして、キスという大胆な体験をしてしまった。
 医務室に運んでくれたのだしお礼は言わなくてはならない。気を失ったのだから、あまり覚えていない感じでお礼をいえばいいだろう。

「どうか、静かに過ごせますように」

祈るような気持ちとは、このことで、普段信じない神に頼るしかない。
 あまり深く考えすぎるのは良くないが、今日子はまた、寝るまでごちゃごちゃと言い訳を考えていた。
 今日子は、たっぷりと睡眠をとり、いくらかスッキリと目を覚ました。いつもの時間に出社すると、既に出社していた後藤がいた。他の社員は当然いない。とぎまぎしていたが、昨日のお礼は言わないといけない。意を決して後藤に近づいた。

「後藤部長、おはようございます。昨日は大変ご迷惑をお掛けしました。仕事もせず早退までしてしまって、申し訳ありませんでした」

 今日子は、深々とお辞儀をした。

「体調はどうだ? 普通に仕事は出来そうなのか?」

 強気の後藤の声はなりを潜め、探るように優しく問いかけられる。

「はい。一日お休みさせて頂きましたので、大丈夫です……ちょっと早く来すぎてしまいましたので、掃除でもします」
「そうか」

 
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