ひとまわり、それ以上の恋
◆14、こんなに好きなのに
 目覚ましのアラームに叩き起こされて、がばっと布団を剥ぐ。
「今、何時――った」
 ズキンと右側に頭痛が走る。ベッドから這い出てバスルームにいくと、兄が洗面台の前に立っていて、訝しげな顔で私を見た。

「ひどい顔だぞ。昨晩も……あんなに酔っぱらって。気をつけろって言ったはずだよな、まったく」

 兄に咎められて、肩を竦めた。
 沢木さんに会ったらお礼を言わなくちゃ……。

「おかげで妙な借りができた。要らない心配かけるなよ」
「……ごめんなさい。でも、沢木さんは悪い人なんかじゃないよ」

 鬼の形相で叱られると思ったのでフォローしてみたのだけど、兄の顔は険しいまま項垂れていた。

「なぁ、おまえを泣かせてる男って誰なんだよ。沢木の口から聞かされるとは思わなかった」

「やだ、沢木さん……そんなこと言ってたの? 他には……何も言ってないよね?」

「本当のところはどうなんだよ」
 兄の声がズキズキと頭に響く。二日酔いでむくんだ顔も確かにひどい。

「……好きな人がいるって言っただけよ」

 それは誰なんだ、と追及されそうだったので、私は適当にあしらって、さっさとシャワーを浴びて会社に行く準備をすることにした。

 腫れぼったい瞼を冷やさないとメイクもできない。脚もパンパンだったから、むくみ防止のストッキングに足を突っ込んだ。いつものプラダのパンプスにムリヤリ足を捩じ込んだら、甲のあたりがぎちぎちで痛い。

 あのミニブーケは玄関の花瓶に飾ってあった。兄がしてくれたんだろうか。振り返るとまた声をかけられそうだったから、「行ってきます」と思いきり玄関のドアを開けた。


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