あおぞらカルテ
case09 86歳男性 糖尿病
歩いても歩いても、田んぼ。

おい!!

病院なんかどこにあるんだ!?

駅から徒歩10分って、ほんとかよ!?

オレは砂利道のなか旅行用のスーツケースをゴロゴロと引きずっている。

明日から研修に行く病院を探しているのに、なかなか病院らしき建物が見つからない。

ようやく第一村人を発見して、藁にもすがる思いで声をかけた。


「すみませーん!ちょっとお聞きしたいんですが…」


ネギの収穫をしているおばあさん。

片手にはなぜか出刃包丁。

おいおい、物騒だな…。


「なんだって???」

「あのー、大川病院を探しているんですけどー」

「おおか???」

「大川病院です!」

「おおかば???」

「おーかわびょーいんですっ!!!」


あぁ…この1カ月が思いやられるな…。

ようやくたどりついたのは、意外にも新しそうな病院だった。

うすいオレンジ色の建物で、この田舎町にはありそうにない色使い。


「すみません、明日からお世話になる研修医の道重です。ご挨拶に伺いました」


いよいよ、地域医療の研修が始まる。

割と便利な都会で育ったオレには、ちょっとした旅行気分だった。

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