金色の陽と透き通った青空
第1話 森の中の小さなガーデンハウス
 眩しいほどに鮮やかな濃い緑が大変美しい、軽井沢の静かな森の中。
 金持ちの別荘地としても有名な所で、中には転々と大きな屋敷が佇んでいたが、その中にポツンと、絵本の中から抜け出たような小っちゃな中世ヨーロッパの片田舎風のガーデンハウスが建っていた。

 禿げてレンガの下地が見えてるしっくいの壁に、まあるい葉のまめつたがはっていて、こけら葺き(木を何枚も重ねて葺いたもの)の屋根に、黒いブリキの煙突……。そこからゆらりゆらりと白い煙が上がっている。

 手作りガラスの可愛いガラス窓は、下から持ち上げて木で支えて上げる形式で、白い手作り風のカフェカーテンがフワリフワリと優しい風に舞い踊っている。
 その窓には飾り鎧戸がついており、その下に取り付けられているアイアンの花置き台には、鉢植えの素朴な花が揺れていた。

 屋根のすぐ下の丸い嵌め殺しの窓は、カラフルなガラスのステンドグラスがついている。

 木の枝風の持ち手に、重厚なロートアイアンの金具の付いたブルーの板壁風ドアを開けると、広さは6畳ぐらいのスペースに、アンティークな焦げ茶色のフローリングが広がる。
 壁は白のしっくいで、壁面上部には廃材風の素朴な木の飾り棚がついており、お手製のカントリー人形が並んでて、その下には手作りリースや、アンティークな額に入ったモノクロの写真も飾られている。
 出入り口ドアの脇には、素朴な木のスツールが置かれていて、その上にブリキの水差しに生けた、朝摘んだ野の花が飾られていた。

 中に入ってまず目に飛び込んでくるのは、大きなガラスショーケース。そして、部屋中に広がる甘い焼き菓子の香り……。
 ガラスショーケースの中には長方形の籐の籠に、色々な種類の焼き菓子が並んでいて、陳列されていた。

 そう……。ここは焼き菓子のお店で、若い女店主1人で、お菓子を焼いて販売している、知る人ぞ知る焼き菓子の美味しいお店だ。
 そのお店の名前は、『森の中の小さな焼き菓子のお店 アンジュ』

 クッキー、パウンドケーキ、フィナンシェ、マドレーヌ、マフィン、シフォンケーキ、ロールケーキ……。
 お店に並ぶ焼き菓子は、昔ながらの素朴で、甘さは少し控え目で、どこか懐かしく優しい味で、一度食べたら、また食べたくなるそんなお菓子達だ。
 一人で切り盛りしてるから、焼き菓子の数もそれ程大量には作れず、普段は10時にオープンして、お昼前後で完売してしまう。お天気の悪いお客さんの少ない日でも、大抵午後2時には完売してしまう。

 入れてくれる袋もとても可愛らしい。
 地味な筋入りの茶色いクラフト紙の袋に、手作りの消しゴムハンコで押した、可愛い絵柄付き。ちょっとレトロな懐かしい雰囲気の袋。

 ギフトセットの焼き菓子詰め合わせは、一ヶ月前に予約しておけば何とか手に入れる事が出来る。味を落としたく無いので、一日に焼く数量も決めている。
 ラッピングもとても可愛く、ギフトセットはとても喜ばれて大好評!!

 オススメは、店長お任せ焼き菓子セットと、ひとつひとつデコレーションした食べるのが勿体ないぐらい可愛らしいクッキーセット、手作りジャムセット、店長のセレクトした茶葉もセットになった午後のお茶セットも人気商品。口の中でほんわりととろける、ほろほろクッキーセットも好評だ。

 オープンしたての頃は、ネット販売もしていたが、今は、お店に来るお客様に販売の分で精一杯で、お店のHPは不定期にUPされる店主ブログと商品情報のみ公開中。
 このブログがまた大人気で、ランキング上位にも何度も登場する程だ。

 ここの若い女店主は25歳。とても綺麗な女性だった。何処か育ちの良さを感じさせられる所作……。色白で大きな澄んだ瞳に長いまつ毛……。長いサラサラの髪を後ろでシュシュで一つにまとめて、お手製っぽいナチュラルなリネンやコットンの服に、同じくお手製っぽい三角巾と可愛いエプロンドレスを付けて、物腰がソフトでとても優しそうな雰囲気の女性。
 お店の名前は、その女性の名前が『杏樹』だから“アンジュ”と言うらしい。

 こんな素敵なお店の素敵な女店主さんには、悲しい過去があった。

 左手首に残る切り傷の跡……。
 誰もがお菓子作りの時に誤って切ってしまった傷だと思ってるし、女店主もそのように言っていたが……。

 本当は悲しい過去の傷跡だった……。

(第2話に続く)










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