恋萌え~クールな彼に愛されて~
第一章 ~伝説の男~


「お電話です」


受けた電話を取り次ぐと塚本は呻くように
「ああ…」と小さく声をあげ、表情を曇らせた。
「はい」と答えるばかりでほとんど会話にならないまま
「よろしくお願いします」と受話器を戻した塚本は
ふぅとため息をもらし頬杖をついた。


その様子に傍らに座る梨花は目を見張った。
何時いかなる時も背筋を伸ばした隙のない彼からは
とても想像がつかない姿に思わず声をかけた。


「どうか、した?」
「え? ああ、まぁ…」


言いよどむのも彼らしくない、と
梨花は怪訝な表情で塚本を伺った。



「塚本くん?」
「…明後日、荷物が届くんだ」
「荷物?」
「船便の2便目が」



梨花の目の前で2度目のため息を落とした
この憂いた男前の名は塚本邦明。
NYオフィスで採用されたエリートだ。
その塚本と梨花が勤めるこの社は
日本とアメリカそれぞれに本社を持つダブルヘッダー。
通例として邦人は日本、つまり東京オフィスでの採用となるが
塚本はアメリカの大学を卒業し、おまけにMBAの資格まで取得し
NYオフィスでの採用試験をトップで通ったという異例の邦人だ。



日本で勤務する梨花やその同僚たちは同期入社とはいえ
実際に彼の姿を拝むことはなかったけれど
塚本と同期入社であることが何となく誇りに思えて
いつかその伝説の人がこっちへ転勤になればいいのに、などと
食事や宴席で集まるたびに よく話をしたものだった。



まさか、それが現実になる日が来ようとは。



この春、伝説の彼こと塚本邦明は東京オフィスへ転勤となった。
しかも梨花と同じ部署の同じグループ。
一気に社内に梨花の「知り合い」という人が増えたのはいうまでもない。

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