銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
砂の海からの船出
「いやしかし、モネグロスを狂王の元へ連れて行くなんて危険な事は……」

―― ドォンッ!

 再びホール全体が大きな振動に揺れ動き、天井から崩れた破片がパラパラと落ちてくる。

「こんな所に置き去りにする方が、よほど危険よ」

「……」

「風の精霊よ、私は行きます」

「モネグロス?」

「私は……私はアグアに会いたい。愛しい君に会いたいのです」

 モネグロスはあたしのハンカチをギリリと握り締めながら、強い決意の篭もった両目で、あたし達を凛と見つめる。

「アグアは私の全てです。この手に取り戻したい」

「いや、モネグロス、しかしだな……」

「アグアよ、私は目が覚めました! 今そこへ行きます!」

「よく言ったわ! それでこそ男よ!」

 相変わらず顔色悪いし、目の下のクマは真っ黒だけど、今のあんたは立派な男だわ。

 そうよ。あんたは、男のグズカス狂王なんかに負けちゃだめなのよ!

 他人の愛をぶち壊すようなヤツに負けちゃだめ。

 そんな裏切り者で、恥知らずで害虫なヤツを、このまま放っておいてはだめよ。

 正義は行われなきゃならないのよ、絶対!

「あたしも風の精霊もついてるわ。心配しないで」

「おい、勝手に決めるなよ」

「なによ、あんたモネグロスを見捨てるの? あんたも裏切り者なわけ?」

「違う! そうじゃなくて、なんでお前が仕切るんだって聞いてるんだよ!」

「あんた達男共が頼りないからでしょ」

 家庭内も社会も、裏方で女が仕切らなきゃうまく回らない。

 これって、どこの世界も共通なのね。女はいつでも苦労させられるわ。やれやれ。
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