《爆劇落》✪『バランス✪彼のシャツが私の家に置かれた日』
⑦中川真澄〜わびしい休日〜

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日曜日、朝、洗濯物を済ませて干し終わってから一息つこうとミルクティーをカップに注ぎ始めた。

注いでみてから、ハッとする。

あ、このカップ。つい先日、嫌味な男に言われたばかりだ。『まさか、前カレのカップじゃね〜よな?』と。

あの時は本当にギクリとした。

二年前まで付きあっていた彼が家に来るようになったのは、付き合いだしてから2ヶ月後くらいだった。

休日に2人で出かけた自由ヶ丘。外観からして可愛い雑貨屋さんに入り、2人で選んだシンプルなペアのマグカップ。私がピンクで彼のが水色。

珈琲を飲むときにも、紅茶でも、あったかい飲み物の時は常に使っていた。

彼と別れてから一応捨てようとは思っていた。

だけど、良く考えたらカップに罪は無い。何より気に入っている。まだまだ使えるのに捨てるなんてカップがかわいそうだ。
だから、彼がいなくなってもカップだけは取っておいた。彼のカップのせいで、彼や彼との思い出が唐突に蘇ることもあった。


『真澄より好きな人が出来たんだ』彼の言葉は、いきなり始まった。

久しぶりにデートだと浮かれていた。彼がマンションに来るかもと、部屋の片付けを済ませて消臭剤までまいてきた。

それなのに、待ち合わせをした川崎の駅ビルにあるスタバで会ってすぐに言われた。

『別れたい』って。

別れてほしい……じゃなく、別れたいと彼の気持ちだけを一方的に押し付けられるように言い渡されたあの日。

初めてスタバで買った、さくらホワイトチョコレートフラペチーノという長い名前のノンコーヒードリンクは、結局ひとくちも飲めなかった。

放心状態で家に帰って、別れを理解するのに何日も何ヶ月もかかった。

ある日、風邪をひいて寝込んでしまった。喉が痛い、頭が重い、体も痛い。ついでに心も痛いな、と。そこでやっと泣けた。
彼との別れを理解出来たのは、風邪をひいたおかげだったように思う。

やっぱり、このカップ捨てようか?
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