ダイス
人為的なのに止めることの出来ない無能さ。



紗江子は闇に息を吐いた。


このところまとわりつく感覚が身体から、神経から離れない。


思い出す要因なんて何もないのに。


紗江子はもう一度息を吐いた。


額にじんわりと汗が滲むのは暑さのせいか。


「あ、また会ったね」


その声に紗江子は顔を上げた。


有名なカフェから飲み物を手にして出てきたのは明良だ。


ひょろりとした身体と甘そうな飲み物は似合わない。


「ああ、どうも」


紗江子が言うと、明良は笑ってみせた。


「帰る時間、ばらばらだね」


明良は腕時計を見てから言った。


彼と会ったのは三度目。


言われてみれば時間は毎回違うかもしれない。


「そうね。特に決まってはないかな」


紗江子も細い腕時計に視線を落としてから言った。


「何の仕事してるの?」


明良はストロー軽くくわえながら訊いてきた。


ホイップクリームが乗ったココア色の飲物の名前は知らない。



.
< 75 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop