奪取―[Berry's版]
2.理由
 喜多との再会で、絹江の記憶は一気に大学時代まで遡る。10年以上前の話であるにも拘らず、色褪せることもなく、心の中に残る思い出だ。
 運ばれてきたカップを口に当て、絹江は紅茶をひとくち含む。目の前に座る喜多は、学生時代の面影を強く残していた。長身で細身の身体。整った顔が人に与えるであろう好印象も変わらない。ただ、年齢を重ねたことで、そこには若さゆえの愛らしさだけではなく、渋さも備わったように思われる。自然と、カップに伸ばされた指先へ視線が向かう。相変わらず、短く切りそろえられた爪は清潔感があった。

「喜多くん、昔と変わってないね。大学卒業以来……かな?そうだ、先生は?――喜多くんのお父様、それにお母様はお元気?」
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