モカブラウンの鍵【完結】
香水よりアロマ
キッチンで1人、鍋の材料をひたすら刻んでいる俺。

姉ちゃんは佐伯さんと笑いながら話をしている。

普通、女なら手伝おうとは思わないのかよ。

佐伯さんが「何か手伝おうか」と声を掛けてくれた時も、
姉ちゃんは「ナオちゃんはいいの。涼太、よろしくね」と言った。

佐伯さんは手伝わなくていい。でも、姉ちゃんは手伝うだろ。

弟なんて、所詮、姉の下僕だよな。


ダイニングテーブルにカセットコンロの準備をして、土鍋を上に乗せる。

取り皿と野菜や豚肉を並べた皿を置いた。


「できたよ」


テレビを見ながら楽しそうに話している2人に向かって言う。


「はーい。あ、しゃぶしゃぶだ。弟よ、ナイスセンス」

「なにがナイスセンスだよ。手伝えよ」

「なんで私が手伝わなきゃいけないのよ。私、お客ですけど」

「はあ? ここは実家だろ。姉ちゃんは身内だろ」

「お嫁に行って、名字が変わってるので」

「よく結婚できたよな。捨てられないように頑張れ」

「はあ? 失礼な! 幸司(こうじ)は私にメロメロなんだから」

「メロメロって」


バカな姉弟の会話を聞いて、笑いをこらえている佐伯さんがいた。


しまった。


どう考えても佐伯さんは反応のしようがない会話だ。

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