奪取―[Berry's版]
9.助言―過去編―
 卒論を仕上げ、あとは卒業を待つだけの3月。喜多は祖父の経営する貸本・古本屋を訪れていた。喜多の祖父は現役を退き、今は趣味的に小さな店を開いていた。経営状態を疑わしく感じるほど寂れた雰囲気のある・貸本・古本屋と探偵事務所を。

「じいちゃん、居る?」

 カラリと小気味宵音を立てながら、引き戸を開き足を踏み込む。高い書架に収まりきらず溢れた本が、所狭しと積み上げられていた。崩さぬように、細心の注意を払い、店内を歩く。たどり着いた店の一番奥、レジが置かれた小さなカウンターに、喜多の祖父は座っていた。喜多の姿を認め、手を上げる。突然の訪問ではあったが、嫌な顔をせず歓迎してくれる。喜多と祖父との関係は良好であった。
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