たなごころ―[Berry's版(改)]
4.契約成立
 古本・貸本屋――わにぶち――の2階。先日腰を下ろしたソファーに、笑実は再び座っていた。頭を下げた笑実を、箕浪は不精ながらもここまで案内してくれた。しかし、その場に居た喜多と短い会話をすると、直ぐに店舗へと戻ってしまったのだ。
 その喜多も、笑実をソファーに促し、紅茶を用意すると。デスクに置かれたパソコン画面に集中してしまっていた。――少しの時間、お待ちくださいね。との言葉を残して。
 手持ち無沙汰に。笑実は失礼にならない程度で室内を見渡す。本日も。部屋の中央を隔てるガラスの壁には、ブラインドが下ろされている。隣室の様子は伺えない。
 恐らく。笑実が座るソファーが置かれている側は、事務所として使われているのだろう。先日も感じたことであったが、古めかしさを感じる1階の店舗とは、大きな落差がこの2階にはあった。生活感を感じさせない、非常に洗礼された作りだ。
 室内は床も壁も、淡いアイボリーで統一されている。笑実が座るソファーも、同様な色合いの革張りのものだ。目の前には、大きなガラス製のテーブルが鎮座する。壁際には、重厚感のある書架がいくつも並び、整頓された書類が顔を見せていた。また、L字型に距離をあけて、ふたつのデスクが。それぞれにデスクパソコンが置かれており、現在、一方には喜多が座っている。2階の室内には窓がないものの、数ヶ所に置かれている観葉植物が、全体の雰囲気を少しだけ柔らかくしていた。

 テーブルに用意されていたカップに、笑実は手を伸ばす。ふと、目が留まった。自身の手の甲に残る傷跡に。

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