たなごころ―[Berry's版(改)]
6.綺麗な眸
 翌日から、笑実は――わにぶち――へと通い始めた。図書館の勤務後から、わにぶち閉店時刻までの約4時間。1週間ほど経つ頃には、笑実にも見えてくるものがあった。わにぶちと言う店舗について、箕浪と言うひとについて……一見だけでは分からなかったことだ。

 笑実がアルバイトに訪れたあの日。予想もしていなかった箕浪の横柄な態度が妙に気に障ってしまった。対して、笑実も負けじと意固地をはり、アルバイト継続の大口を叩いてしまったことは否定できない。帰宅してから、大人気ない自分の態度を反省した笑実は、翌日から気持ちを改めようと考えていたのだ。がしかし、箕浪は。笑実のその思いを気持ちよく、これ以上にないほどまでに踏みにじってくれた。
 訪れた笑実を、小上がりに腰掛け、腕ち足を組みながら。箕浪は言い放った。

「猪俣笑実。契約上の上司は喜多かもしれない。けれども、業務上の上司は俺だろう。もし、アルバイトを続ける気持ちがあるなら。俺の言うことは絶対だ。わかったな!」

 拒否権と言う手札を持ち合わせていない笑実は、頷くしか選択肢はない。首を縦に振る笑実を、箕浪は口元を緩め顎を上げて見ていた。普段は猫背の癖に……と思いながらも。口にはしなかった自分を、笑実は褒めてあげたいと思った。
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