たなごころ―[Berry's版(改)]
10.突然の訪問
 箕浪の鋭い視線と刃のような言葉。
 それから逃れたいあまりに、鈴音は思い出してしまう。数年前まで、箕浪の眸に自身が映るたび、彼が嬉しげに目尻を下げていたことを。温もりある、優しい掌で包み込んでくれたことを。
 あの頃とは、180度変わってしまった箕浪の全て。その全てが、自分の蒔いた種によるものだと言うことも。鈴音は十分に理解していた。だからこそ。今日はこのまま、引き下がるわけにもいかない。
 以前と、外見すら変わってしまった箕浪。元の姿に彼が戻れるまで、鈴音にはまだ望みがあるはずだから。再び鈴音が箕浪の前へ姿を見せたのは、それが理由だった。
 元来。お嬢様気質のある鈴音は、すぐに体制を立て直す。両腕を再び組み、顎を少しだけ上げて。緊張からか乾いてしまった唇に、一度軽く歯を立ててから。再び口を開いた。

「あの女は、箕浪さんに不釣合いだわ」
「そうかもしれないな。俺には、婚約した翌日。何も言わず、他の男と一緒に海外へ行ってしまうような女の方が相応しいって言いたいんだろう?なあ、鈴音」
「あれは……。確かに、私は。私から箕浪さんの元を去ったわ。でも、箕浪さんだって私を追いかけてはくれなかった。婚約までしたのに……」

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