月とバイオリン
……二匙

 廊下は光の空間だった。

踊り場の大きな窓から月光が存分に注ぎ込み、太陽とは違う控えめな白い光が溜まっている。

細かい粒子が幾層にも重ねられ、やわらかな質感があった。


 眩んだ目を閉じ落ち着かせると、シェリーは意識して静かに開いた。

扉が起こした空気の揺れが、静かに波紋のように広がっていく光景は美しく、何か隙間を覗くようだった。

この世にしては美しすぎる。

そんな表現を思いつくほど。


 彼は光景を壊すことなく足を進めるだろう。

光あふれる場面に一歩、そしてまた……。



「メアリーアン」


 幻想終了。

階段の柵の向こうに、予想も及ばぬものを見た。

思わず名前が口からついて出る。

シェリーはこれ以上は無理なくらいに目を大きく見開いた。
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